日々雑論 [読書][シンガポール軍政] どうやら軍政下での混乱は略奪犯殺だけではない

 「シンガポール 近い昔の話」読了。
 華僑大検証の事や軍政下での憲兵隊の暴力行為など、多岐にわたって証言と考証がなされていたのだが、特に印象に残ったのは「イギリス軍」と「旧日本軍」の用兵思想の違いと、日本軍政下でのシンガポールの生活に関してであり、それらの記述に対して非常に興味を引いた。
 「英軍」と「旧日本軍」の用兵思想の違いは一言で言うならば「兵站」をどう考えるか?なのだが、詳しい事は後々に譲るとして、ここでは「軍政下の生活」を見ていきたいと思っている。
 一言で言うなら「超悪性インフレ」だ。
 本当にこの一言だけで終わってしまうのだが、それまで英軍支配の下、比較的安定した経済状態だったにもかかわらず、旧軍の軍政が始まると、バナナドル(軍票)の乱発とストレーツドル(英ドル)の使用禁止、工業用資源の確保や軽工業、生活必需品の軽視、鉄道敷設等における重労働のための労働力狩り出しによる生産力低下、おまけに日本商人の買いだめ横流し闇市等の悪条件が重なって、バナナドルは紙屑同然(卵一個買うのに200バナナドル!使い古しのタオル1本が300バナナドル!!!)まで落ちぶれてしまう。勿論敗戦後は本当に紙屑になってしまうのだが、ここでは敗戦後の事は取り扱わない。
 使用禁止により流通量は全く無いのにますます価値の上がる英ドル(ストレーツドル)と、それに対比して幅広く流通している筈なのにますます無価値になるバナナドル(軍票)、更に物はあるのに市民に全く行き渡らず、闇市や裏ルートで超高騰値で取引されるため、超悪性インフレが留まる所を知らなかった。
 勿論配給制がとられるが、そんなもので得られる物は多寡が知れている。ますます物品の横流し闇市が横行し、市民の生活は塗炭の苦しみを味わう事になる。更に闇市ではストレーツドルか物品でないと取引が出来ず、市民経済の混乱に拍車をかける事になる。
 物はある。だがまともには手に入らない。 金は腐るほどある。だがその腐るほどある金は何の利用価値も無い。
 加えて華僑大検証と軍及び憲兵隊による恐怖政治。
 こんな状態でまともに戦争が継続出来るわけが無い。
 ただ、興味をひいた証言が一つあったので、抜粋してみる。例によって太字赤字はこちらで加工

リー・キップ・リンは言う。
「みんな、日本人が中国でやっている事は新聞を読んだりして知っていました。だから日本人、特に日本の軍隊は性悪で残忍だと言う印象は持っていました。日本軍に占領されると、やっぱりみんな、本当だと感じたものです。でも、もちろん、今となって考えればという事ですが、実のところ日本人は…ドイツ人ほど恐ろしくは無かったですね。ドイツ人はきちんと計算して、事を運んでいるように思えます。それに比べ日本人のほうは場当たり的でしたからね」

どうやら日本人の行動は行き当たりばったりだったという事らしい。
思い当たる節が実に沢山あるな…
というより…なるほどと頷きかねない節が実に沢山…
この超悪性インフレも一寸考えて事を起こせば回避できたものだろうし…
どうやら「いきあたりばったり」を深く考えてみる必要があるようだ。

シンガポール近い昔の話 1942~1945―日本軍占領下の人びとと暮らし

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