日々雑論 四川省大地震を見て関東大震災の朝鮮人虐殺について思うこと

 本当ならもっとはやく言及したかったのですが、なかなかそうもいかなかったのと、ネタ的にいろいろあったので取り上げるのが遅れました。
 日本人による虐殺事件と言えば、南京大虐殺シンガポール大検証がまず思い浮かぶのですが、こちらも挙げておかなければならんでしょうという事で、常日ごろから頭の中にあったんですよ。
 で、今、関東大震災における朝鮮人虐殺を取り上げます。
 よく「朝鮮人が暴動を起こしたから」というのを見かけますが、これは全くのデマです。現に横須賀では横須賀砲兵連隊長A大佐が中心となってこれがデマである事を触れ回り、朝鮮人を保護してます。結果横須賀では虐殺は行われておりません。
 問題は横須賀以外の関東一円です。
 夢野久作関東大震災の報を九州日報で知り、大阪から陸路不通の為、船で横須賀に入ります。翌朝に横浜に入りますが…
 ここで久作が地元の人間に現状を尋ねるのですが…
 以下、「平民芸術」平岡正明より、夢野久作の震災時のルポを見てみましょう。夢野久作といえば、ドグラ・マグラや犬神博士等の変格探偵小説で有名ですが、新聞記者もしていた事があり、ちょうど関東大震災のルポを書いておりますので、それから一部抜粋しますね。太字かつ赤字はこちらで加工

「ランチから乗った一青年に、横浜の惨状を問えば、
『私の申すのは、本当に信ずる事と、実際に見た事ばかりです。一昨日午後、東京を追はれてきた不謹慎の徒は、在浜の同類と一緒になって、あらん限りの非人道的暴行ますます甚だしいので、青年団在郷軍人会等で自警団を組織し、陸戦隊と協力し之を鎌倉方面に逐った。六郷川鉄橋を破壊したのは、追撃を恐れた彼等一味の仕業で、実に此許すべからざる、血無き、涙無き不謹慎の徒の暴行は、非人類としての人道上の大罪悪である』
と語って、悲憤の涙に咽んだ」

一寸おかしいと思いませんか?
朝鮮人の起こした暴動なら「朝鮮人」と書く筈ですよね? 朝鮮人の暴動というデマが飛び交っているのだからなおさらです。
ですが、久作のルポからは朝鮮人」という言葉は一言も出てきません。ただ「不謹慎の徒」「同浜の輩」とあるだけです。
 あともう一つ、皆さんは千田是也をご存知でしょうか?演出家で俳優なんですが、本名は伊藤圀夫です。
 ではなぜ千田是也なのか?
 これにはちゃんと意味があります。千駄ヶ谷のコリアン、をもじったのですね。なぜもじらなければならなかったのか? 震災時に千駄ヶ谷で自警団の朝鮮人狩りにあって朝鮮人と間違われて殺されそうになり、歴代天皇を必死に読み上げてようやく命が助かったという体験をしたからです。
 暴動がデマなのと、虐殺が行われた事は既にこれで結論が出てますが、震災における死者20万のうち虐殺されたのは6000人と言われてます。なぜそんな正確にわかるのか?簡単です。白い他殺死体を数えればよかったんです。震災の殆どの死亡者は2次災害の火災です。ではその朝鮮人の見分け方は?「十五円五十銭」と言わせ、発音がおかしければ匕首打ち込みです。
 最後にまた久作のルポを平岡正明「平民芸術」より引用します。例によって太字かつ赤字はこちらで加工です。

要するに東京市民の一部は、一日午後から三日一パイまでの間に、大部分は人間となり、一部分は野獣と化した物と思へば大した間違いは無いらしい

ここで久作が指し示す「野獣」が、誰の何の行為に対してを示すか…もうお分かりでしょう…
 日本人の朝鮮人虐殺に対してです。
 四川省地震では多くの被害者の救助と復興を願ってやみません。また救助隊、医療チームの尽力にも頭をめぐらせつつ、関東大震災での行為から85年と言う年月が経った今、ようやく地震直後に救助隊が組織され、活動できるという事を素晴らしいと思います。

平民芸術

平民芸術

夢野久作全集〈2〉 (ちくま文庫)

夢野久作全集〈2〉 (ちくま文庫)