日々雑論 [シンガポール華僑粛清][東洋近代史] 裸の王様とおちゃめくん その2

 さて、昨日のエントリでは「おちゃめくん」の中にまで踏み込む事が出来なくて「はて、おちゃめくんとは何ぞや?」と思われた方がそれこそ雨後の竹の子のように湧いていたかと思いますが、今日はおちゃめくんを紹介できるかと思います。
 さあ、裸の王様とおちゃめくんとの運命的出会いをこれから披露しますので、皆さん感動してくださいね。
青木書店「日本軍占領下のシンガポール」より抜粋

日本の教育局長が視学官の李之華につれられて、養正学校及び祟福女学校を参観したとき、突然興味を覚えて黒板に三つの質問を書き、学生に書面で回答するように要求した。
質問は(1)東アジアの国で何処が一番強いか 
    (2)最後に勝利するのはどの国か
    (3)中国の最も偉大な人物は誰か
というものだった。そのお目当ての回答は(1)日本、(2)日本、(3)汪精衛*1、だった。意外にも、二人の学生の答えは(1)中国、(2)中国、(3)蒋介石軍事委員長だった。局長は答案を見て首を横に振り、その学生を呼んで、なぜ蒋委員長と答えて、汪主席と答えなかったのかと尋ねた。その学生は新聞を読んで知ったと返事をした。局長はさらに「新聞」(昭南日報)の報道は汪主席を讃えているではないか。彼は中華民国の主席であり、当然最も偉大とするべきではないのか、と尋ねた。
 その学生は「否」を連発した。私は新聞を読みますが、いつも汪政権が出ています。汪主席は主席ですが政権が無いので偉大とは思いませんでした。やはり蒋委員長は政権を持っているので偉大だと思いました、と。(略)

 オイラだったらその当時であれば(1)「延安時代の中国共産党」(2)「アメリカ合衆国」(3)「景梅九」*2とでもするところだが、これこそまさしく子供に見抜かれて馬鹿にされちまう裸の王様そのものだ。いくら情報統制などで誤魔化しても冷静に状況が読める人間は何処かしらにはいる。裸の王様の場合は打算や虚飾の塊である「王」という権威が「純真な子供」に打ち崩されると言う図式だが、こっちは「大東亜共栄圏」とかいう妄言や旧軍の暴虐行為、中国蔑視も絡んでいる為それよりはややこしいのだがこの学生の発言は、当時の限られた資料の中で判断したものであるのだろうが、明らかに的を射ている。その後、この学生は行方不明になったという話だが…
 この歳になって童話をまた読み返すとは思ってもみなかったので一寸驚きもしたのだが、今だったらこの自分の判断を正しいと主張した学生はKY(空気が読めない)と叩かれていたかもしれないと思うと残念に思えてならないのが哀しい。

日本軍占領下のシンガポール―華人虐殺事件の証明

日本軍占領下のシンガポール―華人虐殺事件の証明

*1:汪兆銘の事

*2:中国辛亥革命時代の革命家、思想家。晩年は不遇らしかったのだがよくわからない。著作「留日解雇」平凡社東洋文庫より